SWISS THEATRE

注:お読みになられる方へ

この映画をまだ観ておらず、これから観ようと思っている方は、お読みにならないで下さい。映画の核心に触れています。

JSA ( Joint Security Area )

 「シュリ」に続いて、朝鮮半島の南北問題に真っ向から取り組んだ秀作。「シュリ」でもそうだったが、全編を通じて深く考えさせられる作品だ。「シュリ」では、男女の恋愛を前面に押し出し、激しいアクション・シーンの連続で一気に見せて行く構成だったのに対し、この「JSA」では、事件の謎解きと男の友情を主軸に置いたヒューマン・サスペンス・ドラマとして、じっくり見せて行く構成になっているが、リアルな戦闘シーンも描かれている。

 ある夜、38度線上にある南北朝鮮分断の象徴的空間、板門店(共同警備区域=Joint Security Area)の北朝鮮側歩哨所で前代未聞の南北両兵士が関わった殺人事件が発生。
 南の主張は、北側が南の兵を拉致・監禁、自力で逃げ帰ったが、脱出時にやむなく北朝鮮軍兵士を2名射殺したというもので、対する北朝鮮の主張は、右肩を撃たれたオ・ギョンピル士官(ソン・ガンホ)の陳述書のとおり、南の兵士1人が歩哨所に侵入し、上尉と兵士を殺害したテロ行為であると韓国を非難するものだった。
 双方の食い違いを解明する為に、両国家の合意のもと、スイスとスウェーデンからなる中立国監督委員会に委ねられ、捜査には、韓国籍の父を持つスイス軍女性将校ソフィー・チャン(イ・ヨンエ)があたった。逃げ帰ったというイ・スヒョク兵長(イ・ビョンホン)の陳述書も、夜間、外で用をたしていると、いきなり拉致されたというもので、その後、逃げ帰るスヒョクを援護し橋を挟んで銃撃戦となった、というのが南側による事件の経緯だった。
 北朝鮮兵の遺体の検死の結果、チョン・ウジン兵士(シン・ハギュン)は8発の銃弾を受けており、衝動的に撃たれたものだが、もうひとりの上尉のものは2発の銃弾で冷静に殺害されたと判断された。これは一体何を意味するのか?

 ソフィーは、事件の当事者である北の士官ギョンピルと南の兵長スヒョクの取調べを始めた。
 しかし、2人は陳述書以上の内容を語ろうとはせず、事件当日スヒョクと共に南側の歩哨所に勤務していたナム・ソンシク一等兵(キム・テウ)や、他の者たちに聞いても、決定的な証言は得られなかった。
 ソフィーは現場に残された物的証拠から真相に迫ろうとする。北の兵に対して撃たれた弾丸の痕は11発。スヒョクが撃った銃には、15発の弾が装填されていた。銃に残された弾は4発のはずだが、実際には5発の弾が残されており、誰か別の人間が発砲した可能性が出てきた。それに10発の弾丸は現場で発見されたが、残る1発の弾丸は、発見されなかった。

 スヒョクは、この事件の発端となった「偶然の出会い」に思いを馳せた…。
 事件の8ヶ月前のある夜、スヒョクが所属する韓国軍部隊が誤って38度線を越えてしまい、用を足していたスヒョクは慌てて引き返す部隊と逸れ、そこに取り残されてしまった。そして葦の生い茂る非武装地帯で地雷に引っかかり身動きできなくなってしまう。そこに、仔犬を追って茂みに入ってきた北の兵士ウジンと士官ギョンピルに出会った。
 たとえどんな状況下においても言葉をかける事は禁じられている北と南の兵士。緊迫した出会いに銃を向け合うが、北の2人はスヒョクが動けずにいるのを知り、そのまま立ち去ろうとする。しかし、スヒョクは彼らに泣いて助けを求めた。哀れに思ったのか、北の士官ギョンピルは危険も顧みず地雷の信管を外してやる。このことは、誰にも言えない出来事だった。
 だが、雪の中で南北の小隊同士が偶然出会い、その中に、あの時の北の2人と南の1人がお互いの存在に気付く。この時、無言のまま北と南の士官同士がタバコのやり取りをしていたが、実際にもこのような事があるのだろうか?
 そして、スヒョクが板門店の警備の任務についた時、3度目の出会いが訪れた…。38度線を挟んで緊迫した警備に就きながらも、お互い自然と苦笑してしまう。

 板門店から離れた38度線沿いにある「帰らざる橋」の歩哨所勤務。夜にスヒョクは、人目を忍んで川の向こうのギョンピルとウジンに、石に手紙をつけて投げた。彼らに奇妙な信頼関係があったのだろうか、何度となくそんな「文通」が続く。
 そしてある日、とうとう手紙の誘いに乗り、スヒョクは38度線を越え北の歩哨所を訪れた。突然の来訪に驚くギョンピルとウジン。冗談を真に受けるとは思いもよらなかった2人だったが、スヒョクを暖かく迎え入れる。それから、スヒョクは深夜になると、共に勤務している弟分のソンシクの目を盗み、「帰らざる橋」を渡って北の歩哨所へ通うようになった。
 ある日、除隊を3ヶ月後に控えたスヒョクは、寂しがるソンシクに「親友を紹介する」と北の歩哨所へ連れて行く。敵同士ではあったが、彼ら4人の間に芽生えた友情に、国境など無かった。ラジカセを持ち込み、北の歩哨所で韓国の人気歌手の曲を聞きながら盃を合わせ、恋人の写真を見せ合い、時には子供のようにはしゃいだ。
 そんな日々が続いたが、スヒョクは、「自分の除隊後は、もう北の歩哨所に行くな」とソンシクに言う。危険であるし、もう止めた方が良いと思ったのだろう。激しい雨の降るウジンの誕生日、絵を描くのが好きな彼へのプレゼントを持参したスヒョクは、皆で記念写真を撮った。
 これが最後の出会いとなる為か、いつまでも離れることが出来ずにいたその時、深夜3時の歩哨所の扉が開かれた…!

 南北分断の最前線で起こった殺人事件。同じ民族同士が敵対している分断の意味などあるのだろうか?朝鮮半島の南北問題について考えずにはいられない。途中で、板門店を訪れた観光客が風に帽子を飛ばされ、北側に入ってしまうシーンがある。ギョンピルがそれを拾って手渡すのだが、その時、手渡されたアメリカ人(だと思われる)が観光客達に
 「私が韓国軍兵士なら、今『ありがとう』と言った事は死刑に値する」と説明。そのくらいの事で死刑とは…機密漏洩防止なのだろうが、あまりにも厳しい。それならば、北に出入りしていたスヒョクとソンシクは完全に死刑だったのだ。北の2人にしても同様だろう。
 彼らの友情は、死を超えるほどのものだったのだろうか?しかし、死を眼前にした時、その友情は恐怖に凍りつく。緊迫した事態に冷静に対処したのは北のギョンピル士官ただひとりだ。疑問に思ったのは、とっさに撃ってしまった最初の1発の後、撃たれた9発だ。茫然自失とした状態だったのだろうが、自分の友人をあのように撃つ事が出来るのか…?実際に、極限にまで達した緊張と迫り来る死の恐怖、一触即発の状態に追い込まれた事が無いから言える疑問かも知れない。
 もうひとつ、最後にスヒョクは恋人を捨てて逝ってしまう事に疑問が残る。兄のように慕っていた友人であるギョンピルを、銃の故障で発砲は無かったが、引き金を引いてしまった。彼にとって、それはもう撃ち殺したのと同じ事だ。ウジンと北の上尉2人の死、そしてソンシクを自殺に追い込んでしまったのは自分であるという責任感からなのか、スヒョクは自らの命を絶つ。
 また「シュリ」と比べてしまうが、「シュリ」の主人公ハン・ソッキュ演じる南の情報部員ジュンウォンは、大きな悲しみと罪を背負い、事件の後もひとりで生きていく…。スヒョクもまた、悲しみや罪を背負ったまま、そして恋人の為にも生きていくべきではなかったのか?

 北の士官ギョンピルを演じたソン・ガンホの演技は特筆もので、冷静で厳しく、それでも尚、暖かで人間味あふれる人物像をうまく表現していると思う。
 主要出演者の中で、唯一女性のイ・ヨンエも、スイス軍女性将校ソフィー・チャンを見事に演じた。彼女の着ている軍服の袖のスイス国旗、襟やベレー帽等に付いているワッペンなど、スイス好きにとっては、たまらないアイテム(?)だ。そんな物を発見するのも、またひとつの映画の楽しみ方かも知れない。
 スイス人として、父の故郷の問題を見つめるソフィー。自分はどうするべきなのか?中立国の人道主義とは…?彼女の疑問はストレートに観ている者の心に伝わる。個人的な意見を言わせてもらうと、もう少し身振り手振りが大きくても良かったのではないだろうか?ソフィーは、韓国人男性とスイス人女性との間に生まれたという設定だが、スイスで生まれ育ったのだから、仕草はスイス人然としていた方がよりリアルだと思う。それと、スウェーデン人と会話する時は英語でもいいのだが、スイス人同士の会話の時はフランス語かドイツ語で話すのが普通だろうと思った。そこまで要求するのは酷というものか…?
 作品としては本当に素晴らしい出来で、娯楽作品としても十分に楽しめるだろう。若い世代から年配の世代まで、すべての人に薦められる映画であることは間違いない。(小さな子供にはちょっとハードかな?)しかし、消えた1発の弾丸の出どころが、何となく平凡なような気がするのだが…。
 2000年度。韓国作品。

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